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「もう大丈夫ですから! ……気にしないでください」
「本当にごめん」
こんなにしおらしい沖田さんは初めて見るからとても戸惑う。あの日以来、見た事のない顔ばかりするものだから、どう接して良いかわからなかった。
「お、お話が終わったなら戻りましょう。おまさも原田さんも置いてきちゃいましたし」
これ以上、一緒にいない方がいいと思った。だけど立ち上がった私の手を沖田さんは静かに握っていて。
「景ちゃん、行かないで」
とても弱々しい声なのに、握る力はとても強くて離せない。
「怖かった。吉田を庇った君がお梅さんに見えて、また関係のない人を傷付けてしまったって」
「お梅さん……?」
「芹沢さんの妾。あの人は関係なかったのに、俺が殺したんだ」
土方さんから聞いた、沖田さんの昔の話のことだろう。暗殺しようとした時に女の人が庇ったと言っていたから。
「無関係な人を傷付けるのは嫌だ。でも俺に与えられたのは人を傷付ける才能。新撰組一の剣客なんて、ちっとも嬉しくない」
僅かに握る力が強くなる。全く痛みはないけれど。沖田さんのやり場のない気持ちが伝わってきそうだ。
「その才能で、今度は景ちゃんを傷付けた。大事だと思ってる人を傷付けるなんて笑えてくるよ」
ハハッと自嘲めいた笑いが、狭い室内に響く。だけどその顔は今にも泣きそうな顔をしていた。
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