蕾の頃

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まだ固い蕾を生暖かい風に晒して、ゆらゆら桜の枝が揺れる。 「好き、です」 固い蕾のままのような告白の声。見つめる想いびとは、視線の先で暢気にサッカーなんかしてる。声は届かない。想いも届かない。届ける気もない。 「やっぱり気持ちわりいよな・・・男同士なんて」 何度目かの後悔。それに滲む想いの欠片。とっくに判ってる、普通じゃないなんて。それでも好きが止まらない。毎日どんどん好きになって、想いが深くなって。 春先の風に、桜がまだ固い蕾の先を薄紅色に染めている。その薄紅が、自分の想いで染まってしまったかのような錯覚を覚えた。 誰でもいい訳じゃない。あいつじゃなきゃ嫌だ。一緒にいたい。手を繋ぐだけでいい。それすら叶わないなら、後ろを歩くだけでいい。それも許されないのなら、どうしたらいいのだろう。この焼けるように痛む胸は、どこに晒せばいいのだろう。  行き場のない想いは業火になって、じりじりと追いつめるようにその身を焼く。  固い蕾が綻ぶ頃に、一度だけ言ってみようか。薄紅色の告白にして。勇気を出してちいさな声でいいから、伝えてみようか。受け入れられなくても、後悔はしないと決めて。
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