それは佇む

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 A子さんは大学で親しくなった同性の友人が、最近やつれていることに気がついていた。  それで、ある日。学生食堂で彼女に、悩みでもあるのかと尋ねてみたのだが。 「そうね。正直言うと、まいってるの。食事も喉を通らないし」  暗い顔を向ける友人は、確かに小鳥が食べる程の量しか口にしていない。 「何なの、悩みって。大学関係? 健康? お金? それとも」  A子さんは、暗に異性関係のトラブルをほのめかしたわけだが。どうやらヒットしたようだ。 「そうね。強いていうなら、そうなのかも」 「かも?」  友人の歯切れの悪い返答に、その語尾をA子さんはリフレインしてしまう。 「私の家、事情があって。今、私一人で暮らしているんだけど。いつだったかしらね。さあ寝ようとベッドに入る前に、二階にある自分の部屋の窓から、ふと門のところを眺めたの。その窓からは門がよく見えるの。門灯も去年、工事してね。明るいーー新しいのに代えたばかりだし。そうしたら」 「何か、いたの?」 「誰かがね。門に寄り掛かるようにして立っているの。門灯が明るいから、はっきり判った。そして、こっちを…私の部屋の方を眺めているみたいなの。じーっ、と」  A子さんは、話の流れが分かる気がした。 「勿論、それ。近所の人や、知り合いじゃないわけよね。通りがかった酔っ払いとかでもなくて」 「そう」 「それで、その晩だけじゃなかったってことね?」  友人はうなずいた。 「ほとんど、毎日ね。雨が降っても関係なし。夜明け前には、いなくなるみたいだけれど。もう、恐ろしくて。家には私しかいないし…」 「つまり、ストーカーってわけよね」  この単語に連なる、過去の陰惨な事件等が瞬間的に浮かびあがってくる。 「それで、警察には相談したの? 遠方にいるんだっけ。お母さんたちには?」  すると、意外な事に友人は首を振るのだ。しかも口元に、自嘲的な笑みすら浮かべて。 「無駄だからーーしていないわ。多分、どうにも、ならないだろうから」 「何で! ストーカーだったら、大変な事になるかもしれないじゃない」 「…門灯のおかげで、そいつの姿もよく見えるの。手足の恰好も、服装も」 「?」
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