誘虫灯

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古い家屋の居間の真ん中、男は夜も遅い時間、頭にヘッドホンを被り目の前の物に没頭していた。実家に住んでいる彼は肩身の狭い思いをしている。家の人間にとやかく言われないためにもと、室内灯は一番小さい明かりだけを使い、目の前にあるノートパソコンの光だけで暇を潰していた。男の住んでいる地域に、娯楽施設などない。少ないのではなく文字通りないので、こうやって家の中で楽しみを見つけることしかできないのだ。 辺りは田んぼに囲まれて、遠くを見渡すことができるほどに高い建物も、何もかもが見当たらない。 そんな片田舎だからでこそ、娯楽には人一倍敏感であり、自分の空間や世界を大事にしたいと思うのも当然なことで、そんな自分だけの時間をできうる限り邪魔されないように、身の回り整も入念に整えるのだった。 田舎と虫は切って切れない、だからでこそ蚊帳を天井から降ろして自分を守る、全ては自分の遊びの為に。
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