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 夏は苦手だ。  暑いし、雨がいっぱい降るし、暑いし、ちょっと気をつけないとすぐ日焼けし過ぎるし、暑いし、水分を過剰摂取したりクーラーが効き過ぎている場所に居なければならなかったりするから体調を崩しやすいし、暑いし、暑い。とにかく暑い。  松山涼也(まつやま・すずや)は楽屋の真ん中に用意されたテーブルに頬をつけるようにして突っ伏した。  光沢を帯びたつるつるとした木材の会議用テーブルだが、数十分間クーラーに冷やされていたおかげでひんやりとしている。頬から伝わる低めの温度が心地良い。 「そんなに言うならもうちょいクーラー強めればいいじゃん。涼也がエアコン苦手だからってクーラー弱めて扇風機つけたんだろ」  隣のパイプ椅子に逆向きになって跨って座る宇品静也(うじな・しずや)が、呆れた声で正論を説く。  どうしてまだ二人しか居ない楽屋で向かいでも斜の位置でもなくわざわざ隣のパイプ椅子に腰かけるのかと一瞬うんざりするが、同じ側に座らないと風が届かない位置に扇風機を置いたのは涼也だ。暑さで垂れているので落とす肩もないが、気持ちだけ肩を落とした。  扇風機の位置を動かせば離れて座れるという考えも浮かばなかったわけではないが、一度腰を落ち着けてしまうと再度動くのは面倒くさいというものだ。何せ、暑いのだし。 「どうせ収録すんの屋内のスタジオなんだし言うほどでもなくね? この局のスタッフさんいつも空調にはめちゃくちゃ気ィ遣ってくれてるじゃん」  たしかに今、背後からやさしく風を送ってくれている扇風機を置いておいてくれたのは気遣いのできるこのCSテレビ局のスタッフだ。  静也の言うとおり、月に一度決まって行われる事務所のアイドル研修生がメインの番組収録の際にはいつも涼也のようなクーラーが苦手なタレントのために頼む前から扇風機を用意してくれていた。  冬場になると今度は扇風機に替わって電気ストーブが用意されるのだが、デビューもしていない研修生のためにそこまで気遣ってくれるのは、涼也が知る範囲ではこの局だけだった。 「……それもそうだな」  正論を重ねる静也に返す言葉もなく辟易とする。
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