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自分用に調整されたその椅子は、かつて家の自室で愛用していた椅子と同じ高さ、角度、柔らかさを再現しており、モニターと電子機器と操作盤で埋め尽くされたこの部屋とはまるで違うものの、長い間見続けてきた当時の景色が、ふと蘇る。
使い古されたPCの横には、メガネっ子にして巨乳のキャラクター「マルデレニコ」のおっぱいマウスパッド。反対側には、ゲーム「アサルトゲイナ」に登場する女性キャラクター「クリアーナ」のフィギュア。正面の壁には、人気アプリを原作に製作されたアニメに登場するアイドルグループ「ポンナ・ポンディナ」こと通称「ぽんぽん」の水着ポスター。部屋に女性が来ないことを前提にした仕様だ。
あの出来事をきっかけに、三次元の女の子との関わりは、完全に諦めていた。
人生についても、同じように諦めていた。
世界よ終われと、毎日願いながら。
人生は、本当に何が起こるか分からないものだ。
今、船の前方に「それ」の姿が迫ってきている。
「それ」は、かつて僕が乞い願っていた、世界の終わりを告げるモンスター。
ラメをまぶしたコールタールの花のような奇怪な姿で、苛烈な宇宙空間に悠然と漂い、太陽の熱を奪い続ける「それ」に付けられた名前は「タエナ」。ロシア語で「謎」という意味だ。
冷凍睡眠から目覚めた5日前からモニターしているが、状況に変化はない。
こちらを認識しているような様子もなく、そもそも意思があるのかどうかも分からないので、不安と興味とがないまぜになった気持ちで、徐々に近づいていく対象との距離の数値を眺めている。
「私なら、映画『未知との遭遇』のテーマを流しますけどね」
4番モニターに表示される女性が話しかけてくる。AIのマッコイだ。机の横に置いてあったフィギュアと同じ顔に調整して、名前も「マッコイ」ではなく、キャラクターと同じ「クリアーナ」、通称「クリ子」に変更してある。
「余計なお世話だよクリ子。その映画観てないし、いいんだよ」
船内に流しているのは「ぽんぽん」の「激烈もんどりー」というアゲ曲だ。
思わずコールを入れたくなる曲なのだが、冷静なツッコミを入れてくるクリ子の手前、やめておく。
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