〈佐藤花子さん〉

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 店員の仕事は、接客だけではない。少なくなっている商品の整理や陳列棚に溜まったほこりの除去、消費期限が近づいた弁当などの食べ物の回収と様々である。  その作業をしている間にも、レジの待機列に会計待ちの客が続々と並び始める。「すいません」や「会計お願いします」などの言葉を客は発しない為、気づいた時には数人の会計待ちの客が並び始めている事もある。  「大変お待たせしました、こちらのレジにどうぞ!」  「……チッ……」  「……」  待機列で待っていた男性客は、少しイラついていた。  待機列の客がいなくなった頃、中年サラリーマン客が来店してレジに直行し、  「たばこ」  と、言った。  「ありがとうございます、何番でしょうか?」  客の表情が一瞬で険しくなった。  「何でわかんねえんだ、バカ野郎!!!!!」  「……えっ」  「常連客だぞ、覚えとけ!!!!!」  初めて見る客だった。  「……申し訳ありません……どのタバコでしょうか?」  「ハイレメン!」  「……ハイ、レ……?」  「ハイスタイルバイオレッドバージョンメンソールだよ!!!!! 何でわかんねえんだ!!!!!」  「只今お持ちします」  花子はすぐに探し出し、そのタバコを持ってきた。  「こちらでよろしいで……」  客は大量の小銭をばらまき、  「ちょうどだ!!!!!」  と吐き捨てるように言うと、タバコを持って去っていった。  35円足りなかった。  「すいません! 35円足……」  もう客はいなかった。
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