第1章

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芸能人やアイドルみたいに、整形手術を用いて人工的な「美」を造られた容姿ではないことは、幼馴染であるが故に彼女が産まれた時から熟知し、その成長ぶりに心をときめかせながらも見守ってきている。 「図星をつかれたからって大きな声出さなくてもいいでしょ。今何時だと思ってるの。煩いな。凛ちゃんの声が聞こえないじゃん」 「図星じゃねぇから否定してんだろ! だからそれは俺のセリフだっつってんだろうが! 今何時だと思ってんだよ。家に帰れよ姫菜(ひめな)!」 バカなツラしている兄とは対照的で、儚げな雰囲気をまとう小学6年生の凛ちゃんが、光也の制服の裾を萌え袖から出ている白くて細い指先でちょこんとつまむ。その仕草、言動のひとつひとつが愛らしくて抱き締めたくなる。 「お父さんがお仕事で遅くなるって電話が来たの。それで、わたし、夜に1人で居るのが怖くて姫菜さんに電話したら来てくれて今まで一緒に居てくれたの」 「あ? オヤジまた遊び歩いてんのかよ」 肩越しに振り返り怪訝な表情を浮かべて妹を見てからフローリングで正座している私を見やる。腕を動かし背の低い妹の頭を雑に撫でた。 「そういうことです。お兄様。最近、この辺りもなにかと物騒ですし、回覧板で回ってきた通り変質者も出没しているらしく、お人形さんのような凛ちゃんが心配になりまして、こうしてはせ参じているわけでございます」 「……そりゃどうも」 光也はなにかを言いたそうに私に睨みを利かせてから、チッとあからさまに舌打ちをしてからキッチンに入り冷蔵庫に頭をつっこんだ。 「変質者ってオマエじゃねーの。毎日毎日「凛、凛」うっせーんだよ。凛は鈴じゃねぇよ。――凛、もう部屋に行って寝ろ」 冷蔵庫越しにくぐもった声で私をバカにしてきながら、妹に指示を出す。 「うん。おやすみなさい」 凛ちゃんは私と光也を順番に見てから、大人しく従いリビングから出て2階の自室へと向かい階段を上がっていった。やがてトントンと軽い足音が聞こえなくなる。 冷蔵庫から牛乳の紙パックを取り出した光也は、注ぎ口に直接口をつけてガブ飲みしながらコッチを向いたから、内心「げっ」と思ってしまう。
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