第1章

5/257
前へ
/257ページ
次へ
小さい頃はなんでも言い合えた仲だったのに、なんでか知らないけど小学校を卒業する頃にはコイツは私と会話することを避けるようになったし、なにか会話をしようとすれば怒鳴るように大きな声を出したり、憤怒するかのように顔を赤く染めたりするし、年々ガサツでぶっきらぼうになっていくのが寂しかったが、私の家族の話題になると、特にこの白雪家(しらゆきけ)の面倒を、自分の子供と分け隔てなく面倒を見ているお母さんの話題になると、なぜかは知らないが、光也は照れくさそうにして、ハキハキとした喋り方を辞めモジモジしながら歯切れの悪い喋り方をし始めるのに気がついたのは中学2年生の夏頃だろうか。 私はコイツのこの態度が気色悪くて大嫌いだと、勉強中の1番上の兄の壱兄(いちにい)にこっそりと打ち明けたら、メガネ越しに私を見てから、クスッと笑い「姫菜にはまだ早いか」と言ったものだから、私は壱兄の意図が読めなかったけど、子供扱いされたということだけは察したから「……まさか光也の奴、ウチのお母さんに恋をしたんじゃ……キモッ」と自分の想像に青ざめると、珍しく噴き出して大きな声で壱兄が笑ったものだから、私は虚を突かれた。 2番目の兄貴の弐磨(にま)とは対照的で、成績優秀でどんな時でも冷静沈着で喜怒哀楽が殆どないような壱兄が、まさかこんな風に笑い声を響かせたのが驚いた私は、しばらくの間その笑い方が頭に焼き付いてて、その晩は全然眠れなかったし2週間くらい壱兄の噴飯した笑い方が頭から離れなくなってしまった。 「四六時中お兄ちゃんのことばかり考えててこれじゃあブラコンみたいじゃん」と自分に言い聞かせるようにすればするほど「ははっ。姫菜はやっぱり可愛いな。もう遅いから寝な。おやすみお姫様」と言われ部屋から出るように笑いを堪えながら肩を震わせて私の肩を触ったその手の感触が忘れられない。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加