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名は体を表す
「しんやさん」
「ばか。ここで、その名を呼ぶな」
後輩カメラマンの肩を掴んだ<しんや>は、シィッと鋭く息を尖らせた。後輩カメラマンは口をつぐむと、短くコクコクと首を振る。
その目は、疑問と呆れを浮かべていて、<しんや>を不快にさせた。
「おまえは、まだなんにもわかっちゃいねぇ。だから、いつまでたっても腕が上がらねぇんだ」
舌打ち混じりに吐き捨てた<しんや>に、後輩カメラマンはムッとした。
「いいか? 誰もを納得させられる写真を撮るのに、必要なのは技術じゃねぇ。ココなんだよ」
胸を拳の裏で叩いた<しんや>を、後輩カメラマンは古臭いと思った。しかし、それを顔には出さない。なぜなら<しんや>ほど、腕のいいカメラマンを知らなかったからだ。
その技術を盗みたい。
そのためには、その人が何を見て、何を感じ、何を求めているのかを知らなければならない。
だから後輩カメラマンは、今回の撮影に連れて行ってほしいと頼んだのだ。
連れて行くにあたり、守らなければならないルールは、ふたつ。
互いの名前を、呼ばないこと。
なんだ、そんなことかと後輩カメラマンは了解した。
しかしつい、呼んでしまった。
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