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参拝者が絶えて久しいとおぼしき神社の奥にある、鎮守の杜に<しんや>が足を踏み入れたからだ。
心霊写真は、けっして儲かるわけではないが、需要が絶えることはない。流行り廃りもないので、これぞというものが撮影されれば、なんども使い回される。
いまではCGなど、技術で偽物を作ることなど容易いが、偽物はあくまで偽物。訴える力などありはしない。
かといって、そう簡単に撮影できるものでもない。だからこそ、後輩カメラマンは心霊写真に定評のある<しんや>の撮影に道々を願ったのだ。
撮りそびれたことのない<しんや>のコツを盗めば、心霊写真だけでなく、ほんの一瞬を捉える技術を身につけて、すばらしい写真を撮影できるようになると信じて。
神社の裏手にまわった<しんや>の神経が尖る。その手には愛用のカメラが握られていた。
全神経を緊張させているのが、薄暗闇のなかでもわかる。
空ではまだ太陽ががんばっているが、夜の帳がゆっくりと、それを閉じようとしていた。
いわゆる、黄昏時という時刻。
けっして広いとは言えない、手入れのされていない鎮守の杜は、そびえる木々の木の葉が陽の光をさえぎって、足元がぼんやりと藍色の闇に沈んでいる。
後輩カメラマンの頭上にある枝から、なにかがドサリと落ちてきた。
「ヒッ!」
太い蔓が蛇に見えた後輩カメラマンが叫ぶ。
「しんやさん!」
呼ばれた<しんや>は目を大きく見開いて、怒鳴った。
「バカヤロウ」
恐怖にまみれたその声を残して、<しんや>は暗く闇に溶け、深夜の一部に変化した。
黄昏時。
誰彼刻。
名がそのものの、形となる刻。
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