プロローグ

5/7
175人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 真備が厳しく周囲に息を吹き付けるように吐きながら、霊符を放って両手を印に結び、秘術を行ったあと、改めて別の印を結んだ。 「高天原に神留まり坐す皇(すめら)が親神漏岐神漏美(むつかむろぎかむろみ)の命(みこと)以て八百万神等(やほよろづのかみたち)を神集(かむつど)へに集(つど)へ賜(たま)ひ神議(かむはか)りに議(はか)り賜(たま)ひて――」  真備の澄んだ声が辺りに響く。渺々たる祝詞によって高天原の息吹が招かれ、集合霊の上に光が降りてくる。べったりとまとまっていた集合霊に亀裂が入り、ヘビ、イヌ、キツネ、タヌキといった個々の動物霊に分解されていく。人霊から動物霊に堕したものもいれば、双頭の大蛇の霊もいた。逃げようとするがゆかりが放つ不動明王の炎が巨大な城壁のように周囲を取り囲み、逃がすまいと燃え盛る。  真備はさらに深く精神を統一し、個別の悪霊すべてを絡め取るように大祓詞で祓おうとする。  葛藤、嫉妬、愚痴、暴力、呪詛、孤独、不信、殺意――。  何代にも渡ってこの家にたまっていた愛憎のすべてを、真備は祓っていく。  大祓詞が終わったところで真備がゆかりに促した。 「晴明桔梗」  真備とゆかりが共に右手を刀印に結ぶ。 「バン・ウン・タラク・キリク・アクッ」  ふたりが声を重ねて晴明桔梗、つまり五芒星を切る。  この星は、天界の象徴、宇宙の秘儀を表し、悪を封印し、撃退するための力へと変える。  真備たちの力による晴明桔梗が敷地全体の規模で法力を放った。  辺りの空気自体が浄化され、地獄臭が消え去っていく。  目には見えないすさまじい法力の奔流にこの家に集まっていたすべての邪霊どもが一掃されたのだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!