第一章 死亡保険金のその向こう側

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 狐耳の少女が、にっと笑った。 『陰(おん)陽(みょう)師(じ)殿に同席させてもらうぞ、桜子』  少女の声が古風な言葉遣いで発された。  彼女の名前は「白子」といい、その正体は、桜子の家の近くにある鷹の台の稲荷神社にいる稲荷大明神の眷属たる白狐だ。そして桜子の小さいころからの親友であった。  つまり、桜子も「視える人」なのである。  白子の言葉に、桜子がやや猫目がちな目をまん丸くした。真備やゆかりを何度も見やりながら、驚きをあらわにしている。 「白子、どうしてうちに来たんですか」 『うむ。陰陽師殿がおぬしの父親に会うと聞いての。面白そうじゃからついてきた』  白子の言う「陰陽師殿」とは、真備のことであった。  この夏、二条桜子と白子の因縁(いんねん)に始まり、桜子が生霊となって彷徨うという霊的な一騒動があったのだが、真備の活躍によって解決していた。そしてその騒動の、ある意味もうひとりの中心人物が、これから真備が会おうとしている桜子の父親なのである。 『あれじゃろ。おぬしとおぬしの父親は仲良くなったんじゃろ』 「それは、そうですけど」 『わらわの姿が見えるくらいは反省したのか』 「父は霊視なんて出来ません……」 『じゃろうな。だからわらわのことは、まあ、空気みたいなものだと思っておれ』  ふわりと舞うようにさっさと玄関に上がってしまった。 「あ、ちょ、ちょっと、白子っ」 桜子が珍しく普通の女の子の声を出す。幼なじみと言ってもよい白子相手だからだろう。 「まあ、いろんな霊的なものが視えながらの営業というのも、これまで経験済みだから」  真備がもう一度、ハンカチで額の汗をぬぐいながら、玄関に入る。  陰陽師として絶大な霊能力者でもある真備にとって、霊障(れいしょう)にあっている人と面談をする際には、悪霊の姿が本人と二重写しで見えたりするのはしょっちゅうなのだ。 「もっとも、お客さんサイドにも霊能者がいるのは滅多にないけど」と、真備に続いて入ってきたゆかりが付け加える。 「だから、桜子さんの方こそ、白子が何をしゃべっても我慢しててね」 『ほー、ここが桜子の家か。陰陽師殿、早く来るがよい』  ゆかりが言うそばから、白子は自由に振る舞っていた。
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