プロローグ

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 台風の過ぎ去った日暮れ、小笠原真備、御子神ゆかり、そして式神の梨華は小平市内のとある家の前にいた。先ほどの大烏は梨華の変化で、真備とゆかりごとその姿を烏に変じてこの家まで飛んできたのであった。  理由はただひとつ。  この家に巣くう魔なるものを調伏するためである。 「梨華、お願い」とゆかりが声をかけると、式神の梨華が鈴を鳴らしながら神楽を舞い始めた。清らかな鈴の音が周りを清め、台風のもたらした湿気をも軽くするようだった。 「なるほど。大きな家ですね。ずいぶん古くからこの辺りに住んでいるんでしょうね」  梨華の神楽の鈴を聞きながら、真備がゆかりに尋ねた。敷地でニワトリの鳴き声がする。独特の臭いもするから、ニワトリ小屋があるのだろう。 「裏手の農地も含めてすべて所有地らしいわね。この辺りの飛び込みをしていたときに気になっていたんだけど、やっと会えた途端、調伏対象だってわかったわ」  ゆかりが敷地をぐるりと囲っている柊の葉にそっと触れる。悪霊や鬼を寄せ付けないための結界の名残だったのかもしれないが、住んでいる者たちが信じていなければ効力は限りなくゼロに近づく。  真備とゆかりはこの小平市を中心に、平日はエメリー生命保険株式会社の営業マンとして飛び込み営業をしながら、霊的に問題のある家や悪霊で苦しめられている人を探し、週末にはその本来の力を使って悪霊調伏や生霊返しを行う陰陽師なのである。  不倫問題で嫉妬や愛欲にまみれた人を翻弄しているヘビの霊や、吝嗇の心に取り憑いた餓鬼霊、荒々しい仕事の中で、闘争の世界に心を追いやってしまった人に憑依している阿修羅霊や鬼などを、人知れず祓っているのであった。 「姉弟子が、俺とふたりがかりでの調伏をお願いしてきて珍しいと思いましたけど」  真備が懐から霊符を何枚か取り出した。「結構、でかいですね」 「でしょ?」とゆかりが苦笑しながら、隙なく立つ。 「ちりも積もればってヤツよね。家の敷地全体がただの動物霊のたまり場と言うより、魔の障りをもたらしかねないってすごいわよね」  本来、週末における調伏は、その家の魔物を見つけた方が担当する。しかし、今回、ゆかりが見つけたこの家は特殊だった。
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