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梨華の神楽によって家、庭、裏の畑、それら敷地全体から薄く白い布のようなものが浮き上がってきた。熱い鉄板に乗せられた貝類のように蠢いている。
「これが全部、低級な悪霊や動物霊の類なんですよね」
真備が呆れたような声を出す。台風で叩き落とされた葉のこもった臭いを遥かに圧倒する生ゴミのような臭いが立ちこめる。霊的な臭い、いわゆる地獄臭だった。
「特定の誰かのせいというよりも、古くからの家なので代々のしがらみがいろいろと積み重なっているみたいね。ここ何代かは結構若くして死んでる人が出てるみたいだし」
「集合霊の一種でしょうね。いや、もうここまで来ると本物の魔や鬼がいつ来てもおかしくないレベルだ」
真備が厳しい眼差しになる。その間にも真備は法力を練り上げ続けている。
「どうやる、真備くん?」
ゆかりが問いかけた。その声は年下の弟弟子に対してではなく、圧倒的な実力者への畏敬の念がこもっている。
鈴の音がひときわ大きく空気を振るわせ、梨華が神楽を終えた。
こびりついた汚れが浮き上がるように、集合霊が敷地から少し遊離している。
「まず、俺が大祓詞を唱えるので、姉弟子は不動明王の火炎で浄化してください。梨華は俺と姉弟子がふっ飛ばした破片を潰してくれ」
「真備くんの負担が大きくない? って、真備くんの陰陽師の実力なら愚問だったわね」
ゆかりが両足を肩幅に開いて呪法の準備をした。
「あいあい」と答えた梨華が敷地の反対側に向けて走り出す。
ゆかりが手にした霊符を投げつけた。
「のうまくさんまんだばざらだんかん」
印を結んだゆかりが不動明王の真言を唱える。一切の魔を焼き尽くす火炎がゆかりから発される。火炎呪はゆかりの得意とする法力のひとつ。踊るように火炎が動き、家の敷地をぐるぐると渦巻くように走り回る。集合霊が文字通りあぶられ、身をよじる。
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