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少しして梨華が帰ってきた。
「真備様、逃げようとした邪霊、見える範囲で叩き潰してきたよ」
「お疲れ、梨華」
すべてが終わって、真備が緊張を解く。
「ありがとう。やっぱり真備くんに来てもらってよかったわ」
ゆかりが女神のように微笑んだが、真備は息をついて言った。
「単体ではそれほどでもないとは言え、あれだけ集まっていましたからね。もう少しだけここにとどまって、周囲の安定を見ておきましょうか」
調伏にあたって、真備は最後の最後までとどめを刺す性格なのだった。
三人でぐるりと敷地の周囲を一周して歩く。
「平日の真備様の保険の仕事もこのくらいうまく行ったらいいのにね」
「梨華、うるさい」
真備と梨華の軽口の叩き合いにゆかりは思わず笑い声を上げる。
だが、仮にいま悪霊が出現したら、真備も梨華も一瞬にして撃退するだろう。それだけの力はきちんと確保した上での漫才行為だった。
「うふふ。じゃあ、せっかくだからここで保険のお仕事の進捗確認でもしましょうか」
「マジですか」
保険の仕事においてもゆかりは真備の先輩にあたるのだ。
「明日からの営業予定は?」
「えーっと……あ、木曜日に二条桜子さんの家に行きます」
真備が出した名前に一瞬、ゆかりが考える顔になったが、すぐに思い出した。
「おおっ。桜子さんのところに行くんだ」
「海外で仕事しているお父さんが日本に一時帰国するんで、保険の話をして欲しいって」
「あの子、お父さんとの関係で心に傷を負って生霊となったりしたけど、真備くんに救ってもらったんだもんね。元気になって、お父さんとも仲良くなって、良かったわね」
ゆかりが心の底から安心したように言った。
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