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そう思えるほど、永劫の逡巡であった。
香湖は、亜弓の方を向かず、迷いの無い声で云う。
「もういい、手を離せ亜弓」
毅然とそう言った香湖の声には、以前の力強さが戻っていた。
亜弓は手を離し、「頑張れ」と云い、信じるように香湖を見つめる。
正に、その時。刻が動き出した。
香湖の耳には雑多な音、歓声、吐息、雑踏、電子音、心音。
そして死を告げる、訃音が目の前から聞こえた。
下沢のユリアンは止めのタックルを豪鬼に放つ。
香湖は恰も、それが来るのが解っていたが如く、軽々とブロッキングする。
下沢の口元には勝ちを確信した笑みが浮かぶ。
ユリアンは、スーパーキャンセルで斜め上にエイジスを張った。
弱P弱P前弱K強P。
それは淀みない刹那の動作であった。
瞬獄殺。
天。
―――。
…香湖は立ち上がった。
最早その闘いには何の興味もないように躊躇いなく立ち上がった。
そして一点を見つめた、彼女が戦いの最中感じた、一点。
その一点には、一人の少女が立っていた。
その少女も又香湖を見つめていた。
不安げにそして不敵に…。
香湖は嬉しげに呟く。
「…私は運命を信じよう…」
香湖の瞳は、神妙なほど冷たく輝いていた。
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