運命

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運命

少女は静かに、現れた。 彼女は無垢であった。 彼女は純粋であった。 彼女無力であった。 故に彼女は、恐れを知らなかった。 しかし彼女は踏み入れてしまった、禁断の地へと。 逃れ得ない運命と、邂逅してしまった。 日野桜を最初に迎え入れたのは、怜悧な視線であった。 彼女はその視線を感じると、その方向に、躊躇い勝ちに視線を向ける。 そこには、二人の少女が立っており、 その一人、背が高く長い髪の少し冷たげな感じの女性が、ジッと桜を見つめていた。 その冷たい瞳の奥には、秘められた熱い煌きのようなものがあるのを桜は感じたが、 それ以上の詮索はせず、彼女は、視線を少女から逸らした。 桜の視線はそのままカウンターの方に向けられた。 彼女は、店員の大谷という人物に用があったのだが、そこに店員らしき人物はなく、カウンターには誰もいなかった。 彼女の視線は、店内を彷徨ったが、何やら騒がしく喜んでいる二人の男たちが目に留まった。 一人の男はエプロン姿で、その胸の所には大谷というネームプレートをぶら下げていた。 桜は、それで彼が件の大谷だと解かった。 桜は、案山子から只大谷という店員が困っているから助けて欲しいとしか聞いていなかった。 用件を聞くと、行けば分かるとしか云わなかったので、桜は戸惑いながらもこのゲームコーナーに足を運んだ。 彼女は、初めてここを訪れた。 百貨店「ティーガー」には、時々買い物には来るが、そこの二階のゲームコーナーを訪れた事は嘗て無かった。 そんな桜に案山子は何を考えて、どんな手助けを頼む積もりか彼女は計りかねたが、恩人の頼みを断る事はできず、 意を決してゲームコーナー「どきどきランド」を尋ねたのだった。
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