運命

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負けた下沢は、うな垂れ、力なく席を立つと、後方の上代を見た。  上代は、下沢に侮蔑の視線を向け嘲るように 「素人を喜ばせる試合をしたな」と云った。 惜しかったな、等の労いの言葉を期待していた下沢は、それが叶わないと確信し俯いた。 上代は、最早下沢には視線もくれず、隣の中条に「馬鹿な素人どもは、良く、奇跡の逆転とやらを歓ぶ」 と云うと上代は苦々しく、視線をはしゃいでいる大谷たちのほうに向けた。 上代の視線の向こうでは、大谷と日高が何やら興奮気味に叫んでいた。 「今の見た!?ブロした後、瞬獄何て初めて見たよ。あれ少しでも遅れてたら豪鬼の負けだったよね?」 「そうだなあ。強い!あれは案山子以上だ!案山子なんて問題にならない!!」 大谷は、興奮気味に叫んだ、それは殆ど掌返しのような言い草だった。 「あれは案山子以上だよ」 上代はそんな会話を苦々しく聞きながら、隣の中条に言う。 「奇跡の逆転とやらを許すのは所詮詰をしくじった馬鹿だけだ。 要するに下沢はあそこでタックルをする必要は無かった。 画面端の豪鬼にエイジスを張るだけで、事はすんだ筈だ。 勝利には、何のドラマも奇跡も必要じゃない、 只当たり前の事をして当たり前に勝つだけだ」 上代は、口ではそういっていたが、しkし心の奥底では別のことを考えていた。 確かに下沢のユリアンは、自らタックルに行って墓穴を掘ったが、何がそうさせたかは、理屈ではない。 あの豪鬼使いが凡百な使い手ならば、下沢も少しは慎重に行動したかもしれない。 あの女の得体の知れない重圧が、下沢に軽率な行動を起こさせたと云う事も否定できない。 「…ち、欲しくなっちまったよ、あの女が」 上代は貪婪な視線を香湖に向けてそう呟いた。
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