運命

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香湖は、入り口に立つ少女がニノマエサクヤではないことに安堵し、安堵した自分を軽蔑した。 「私があの時より成長したのは、小手先だけだな…」 自嘲気味に呟き、掌を見つめるとまだ微かに震えていた。 この振るえが恐怖によるものではなく、武者震いであれば良いが。と考えている香湖に行き成り亜弓が抱きついてきた。 「カコ!心配したよ!あのユリアンそんなに強かった?」 亜弓は、香湖の動揺の理由があのユリアン使いにあると思っているらしかった。 香湖は両手で亜弓を引き離すと「お前は何も感じなかったか?あの少女だ」と云って視線で入り口の方を促した。 亜弓が視線をその方向に向けると、少女が戸惑いがちにゲームコーナーの入り口の所に立っていた。 その少女は、香湖達と同じ位の年で、地元の高校と思しき制服を着ていた。 背は亜弓より少し高いくらいで、髪は丁度肩の辺りで切り揃えたボブカットであった。 顔立ちは整っていて、目はややつりあがっていたが、 香湖のように冷厳な、人を寄せ付け難いという印象は無かった。 全体の落ち着いた雰囲気からある種の気品が滲み出ていた。 不思議な事と言えば少女の左手の薬指に赤いリボンが結びつられていた事だろう。 それに何の意味があるのかは、香湖たちには分かりかねた。 少女は、やがて大谷の方へ足を向けそのまま何やら話し出した。 亜弓は「あの女の子がどうかしたの?」と首をかしげて訊いた。 「亜弓。お前は言ったな、ここで運命的な出会いがあると。お前の勘は当たった」 香湖には珍しく興奮を抑えきれない声だった。 「もしかして、カコがミスをしたのって、あの子の所為って事? あの子の出す雰囲気みたいなものを感じたの?」 香湖は黙って頷く。 亜弓は訝しげに首をかしげた。そんな事あり得ないと言う風に。
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