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「私が、あの少女から感じた気配は、初めてじゃない。
昔一度だけ感じたことがある」
亜弓は、香湖の真剣な眼差しに、緊張し姿勢を伸ばして耳を傾ける。
「一三九八」
「ニノマエサクヤ」
亜弓は鸚鵡返しに云い、そして香湖が戦いの最中に呟いた言葉を思い出した。
「それって人の名前だよね?何者なの?」
香湖の表情が厳しく緊張したのが亜弓には分かった。
「人であれば良いがな…」
その響は、深く冷たく亜弓の耳朶に触れた。
一三九八は真理の到達者であり、理の破壊者である。
この互いに矛盾する形容は、戦ったもののみが理解するという。
しかし戦い知れば時遅く、凡ては失われる。
触れてはいけない禁忌、理解できない最大の狂気であった。
ニノマエサクヤは、常世より現れ、現世にて君臨する。
その統制は全てを支配するまで終る事はない。
「…そのサクヤは、カコより強いの…?」
亜弓は恐る恐る聞いた。
香湖は自嘲気味な笑みを浮かべ答える。
「…私は、闘わずして逃げた…」
香湖は三九八について、それ以上の事は何も話さなかった。
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