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香湖と亜弓の間に暫しの沈黙があったが、その沈黙を破るように、
日高がカウンターの方から二人のほうに近づいてくる。
日高の表情は多少緊張の面持があり、何処か弱りきったような困惑気味に目が泳いでいて、
何か恐縮するような態度で二人の前で立ち止まると、
勇気を奮い立たせるように息を吐き、二人を見つめた。
そして簡単な自己紹介をすると、ますます恐縮して言った。
「あの、さっきの対戦見てたけど、強いですね…。
初めて逢っておいて申し訳ないけど一寸頼みたい事があるんですが…」
そう云って日高は後ろのカウンターをチラチラと振り返る。
そこには大谷とケン使いの上代とその連れの中条が何やら険悪な雰囲気で話しており、
日野桜が大谷の傍らで、困惑気味にその様子を見ていた。
香湖にもその様子が見え、日高が何を頼むのかが察せられた。
隣の亜弓は好奇の目で香湖の顔を見たが、
香湖はそれに気が付かない振りをすると、目の前の日高に向かって云う。
「一応、話だけは聞こう…」
不本意ながらどうやら私も片足を突っ込んでしまったらしい。と香湖は思った。
日高の顔は少し明るくなり二人をカウンターの大谷のところに促す。
全てのお膳立ては終わり、後は始まるばかりだった。
亜弓は小声で香湖に囁いた。
「…あの子強いのかな?」桜を見ながら言う。
香湖は何も云わず、ただ桜だけを見つめていた。
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