出会い

5/24
前へ
/94ページ
次へ
 どきどきランドのカウンターに座るアルバイト店員の大谷忠吾は、対戦が行われている「サード」をぼんやりと眺めていた。 大谷が座るカウンター席から一番良く見えるゲームは「サード」で、それは偶然ではなかった。 というのもドキドキランドの店員の一人、案山子は三度の飯よりサードが好きで、事務作業中でも大事な闘いを見逃さないという 配慮からあえてカウンターから一番見えやすい位置に置いてあるのであった。 現在行われている対戦は1プレー側がリュウ、2プレー側がケンで所謂「胴着系」同士の戦いであった。 既に一ラウンドを先取されているリュウ側の体力は、既に殆ど無くほぼ勝敗は決していた。 八方塞のリュウ使いのプレイヤーは日高裕二と言って、どきどきランドの常連の一人であった。 日高のリュウは半ばやけっぱちにジャンプしたが、ケンはSAの神龍拳を冷静に放つ。それをリュウはBLできず、為す術も無く倒された。 それと同時に「イエー!」と煽るような歓声が2P側の筐体から聞こえた。 大谷のいるカウンターからは、2P側は筐体の影となっておりプレイヤーの姿は見えないが、 2P側にはケンを使うプレイヤーと他に2人の仲間がおり、3人は日高をからかうような煽り混じりの嬌声を上げて騒いでいるのだった。 画面に表示された2P側の連勝を示す数字が3から4に変わっていた。 「弱えーよ。このゲーセンレベル低すぎ!」というあからさまな煽り声が聞こえた。ケンを使っているプレイヤーだ。 負けた日高は、怒りを露わにして立ち上がると、小銭が尽きたのか両替をするために大谷が座るカウンターの傍にある両替機の方にやってきた。 大谷は悔しそうに両替をする日高に声をかけた。 「あんまり煽るようなら、注意しようか?初めて見る客だがどうもマナーが酷いな」 しかし日高は苦々しく首を振る。 「いいよ。あんな奴等次で倒す。力で黙らせてやるよ」 そういって日高は小銭を握り締めた。 大谷は頷くと「オウ、黙らせろ」と常連の日高を応援した。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加