桜の王子様 1

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「那智くんごめーん、この鉢植えそっちに置いくれる?」 「わかりました」 美華さんから鉢植えを受け取って、 指示された場所に置く。 店先に置くと、 丁度、初老の女性に話しかけられた。 「あなた、ここの方?」 「はい、いらっしゃいませ。何かお探しですか?」 「ちょっとプレゼント用のお花を見繕っていただきたいのだけれど」 「畏まりました。では、こちらへどうぞ」 ここは俺がアルバイトしている花屋さんで、 根尾夫婦が営んでいる。 さっき俺に鉢植えを置くよう指示したのが、奥さんの美華さん。 今カウンターで女性の話を聞いているのが、旦那さんの彬さん。 俺は花に関しての知識が乏しいから、 接客や力仕事担当で雇ってもらえた。 実際、俺の接客を評価してここに来てくださるお客さんも多く、 美華さんが「女性のお客さんが増えた」と喜んでいた。 なにはともあれ、美華さんが喜んでくれるなら俺も嬉しい。 ・・・あれ? あの制服、うちの高校のだ。 そして、あの子は確か・・・ 「いらっしゃい」 「え?・・・きゃあっ!」 店の中ばかり見ていて、俺が近くにいることに気がつかなかったんだろう。 話しかけると飛び上がって、数メートル離れてしまった。     
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