母の死

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 僧侶に渡しそびれていたお布施を、葬儀の後になって渡しに行った時のことです。 「本日はありがとうございました」  私がお盆の上に乗せたお布施を差し出すと、僧侶は険しい顔で頭を左右に振りながらこう言いました。 「それはいただけません」 「え?」自分のマナーを指摘されたのかと思っていました。初めてのことばかりで右も左もわからず、失礼があったと思ったのです。 「私の力不足です・・・・・・」僧侶は頭を下げました。 「すみません・・・・・・ちょっと意味が分からないのですが」私は俯いた僧侶の顔を覗き込むようにして言いました。 「私の仕事は仏様が成仏するのを手伝うことです。しかし今回は・・・・・・」 「今回は?」 「地獄へ落ちないようにするのが精一杯でした」 「へ?」私は口を閉じるのも忘れていました。 「もしかするとこれから先、お母様は地縛霊となり、あなたのもとに現れるかもしれません」
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