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「まあ良いわ・・
私も貴女に悪く思わなくて済むわ・・」
その言葉に腹が立つ。
あの時私がどんな思いで別れの言葉を聞いたかなんてこの女には分からない。
どんなに恥ずかしかったか、どんなに惨めだったか。
その私を彼が助けてくれた・・
もう一度胸のペンダントに触れる。
こんな醜い私じゃダメ。
少しはましな女にならなくちゃ・・
そう思い直して化粧室を出た。
次の日も、その次の日も、私はペンダントを胸に仕事に励んだ。
このペンダントに恥ずかしくないようにしなきゃ。
そう思う。
化粧室で鏡を見ながら、まるで戦場に赴く戦士宛ら弱い心にペンダントと言う鎧を着けた。
今日は少しお腹が痛む。
ストレスで生理が早まったようだ。
予定より五日も早くきたせいでバッグのなかなは整理用品の準備がない。
そう言えば、前に試供品にと貰った物がロッカーに有ったと思い出した。
急いでロッカールームに向かうと何人かの声が聞こえた。
「ねえ、聞いた?
企画室の佐伯晶、営業部の三浦を振って金持ちの男に乗り換えたらしいわよ。
これ見よがしにお高い宝石なんか首からぶら下げて見せびらかしてるんだって」
「うそー、そうなの?
私は佐伯が三浦に振られたって聞いたわよ」
「えー、私は佐伯が国武常務と出来てるって聞いたわ。
今度の抜擢だってそのせいらしいって」
私は頭が真っ白になる。
何でこんな酷い事言われなきゃならないの?
そう思うと手が震えた。
「佐伯さん、どうしたの?」
声を掛けてくれたのは少し前迄直接の上司だった浅野常務だった。
女性初の常務と持て囃されながらも仕事には厳しい。
信頼できる上司だ。
ロッカールームからはまだ私への中傷が聞こえる。
「気にしないの。
私なんか部長になった時にはもっと酷い事言われたわ。
あんな噂、一月もしたら消えて無くなる。
そんな下らない事に負けないで仕事をしなさい。
結果を出せば悪口を言う人もいなくなる。
頑張るのよ」
そう言ってロッカールームに入って行く。
「貴女たち、そんなにバカな噂話に花を咲かせるなんてよぼど暇なのねぇ・・
そんなに暇なら明日からの街頭アンケートに回って貰おうかしら?」
そう言って彼女達をたしなめた。
私は今来た風を装ってロッカーを開けた。
目的の物を見つけると黙って化粧室に戻った。
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