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あんなに自分勝手に生きていたと思っていた叔父が、この街では以外にも有名人なのだと初めて知ったのは、葬儀の席に訪れた人の多さからだった。
一般人は元より結構な有名人やよく映画やテレビで見る女優迄が叔父の死を悲しんでくれる。
そしてその人達の殆どが僕の名前を知っていた。
「ヒロ、気を落とすな。
何かあったら遠慮しないで電話してよ」
皆がそう口を揃えるように言った。
僕は少し不思議な気持ちで叔父の葬儀を終えた。
埋葬の為に皆で墓地へ移動する。
叔父の写真を抱く僕に女性が近づいて来た。
彼女はアメリカ人なら誰もが名前を知っているような有名な女優だった。
アジア系のエキゾチックな顔立ち、移民でアメリカに来たのが十代の終わりだとは思えない位流暢な英語。
人種の坩堝と言われるアメリカならではの差別にもめげない高潔さが彼女の最大の魅力だった。
そんな彼女がまさか伯父の昔の恋人だなんて、彼女自身の口から聞かされた今でも信じられなかった。
「ヒロ明日時間有るかしら?」
僕がなぜかと聞くと、ケイの形見が欲しいと言った。
どんな物が良いかと聞くと自分で選びたいと言う。
良ければケイの家に行くわと言って僕の側を離れた。
彼女の姿を見る。
大粒の真珠のネックレスにアメジストの指輪、少しだけ右足を引き摺る様に歩く。
そう言えば前の映画の撮影でで怪我をしたと聞いた気がする。
その姿に彼女を思う。
もし僕が死んだら、彼女は僕の形見が欲しいと言ってくれるだろうか?
あの夜のあの可愛い寝顔が今も僕の心を虜にしている。
君はこんな僕をどう思っているのだろう・・
そう思ってまた声が聞きたくなる。
急に二人で行った蕎麦屋の事を思いだした。
あの蕎麦屋なら、彼女の連絡先を知っているはず・・
でも蕎麦屋の名前が出てこない。
彼女と歩いた道筋をGoogleで辿った。
あっ、有った・・
角度を変えて店構えを見る。
確かにこの店だ。
だがやはり店の名前が見えない。
がっかりしていると伯父の友人が僕の携帯を覗く。
「おっ、懐かしい。
宝やじゃないか」
そう言って嬉しそうに僕を見た。
「ご存じなんですか?」
そう聞くと浅草寺の近くで、学生の時には毎日のように通ったと笑う。
今も電話番号が携帯に有ると教えてくれた。
僕はその番号を新しい携帯に移す。
時差を考慮して電話をかけなきゃ・・そう思っていた。
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