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夕方約束の時間に少し遅れて両親の泊まるホテルに着いた。
フロントに息子だと名乗り部屋に向かった。
少し躊躇いながらドアをノックする。
中からは聞き慣れぬ女の子の声が聞こえた。
直にドアが開かれる。
顔を出したのは見たところ10~11歳くらいの女の子だった。
僕の顔を見ると嬉しそうにお兄ちゃん?と聞いた。
「えっ?僕が?」
僕は正直面食らう。
「あの・・
この部屋は景山夫妻の部屋で間違い無いですか?」
そう聞くと詰まらなそうに僕を見た。
「お兄ちゃん、比奈の事覚えてないの?」
そう言って口を尖らせた。
僕はその顔に見覚えがある気がした。
「比奈・・ちゃん?
君、景山比奈ちゃん?」
女の子は僕の質問に不思議そうな顔をする。
まさか僕の妹じゃ・・
いつの間に?
そう思っていると母が顔を出した。
「裕人?お父さんなら一階のレストランよ」
そう言ってから僕を強く抱き締める。
「元気にしてた?
ちゃんとご飯食べてるの?」
まるで小さな子供に言うように僕の顔を見ながらそう言った。
「母さん、その子・・」
「ああ比奈?
それも含めてお父さんが話すはずよ」
そう言ってから、後で行くわと微笑んだ。
母に聞いたレストランに向かいながら僕はまださっきの女の子の事が心に引っ掛かる。
あの顔。
何処かで会った事がある気がしてならない。
誰だ?
そう思いながら父の待つテーブルに向かった。
父は珍しく一人でワインを飲んでいた。
真面目一筋で叔父とは正反対の父は普段酒など殆ど口にしない。
やはり弟の死はこの人にもショックだったかとその前の席に腰を降ろした。
「遅くなってごめん。
なんだか疲れが出てちょっとのつもりが眠ってしまって」
「いや・・
急に呼び出した此方が悪い。
すまないな」
僕は驚いて父の顔を見る。
あの父が僕に謝る等思ってもみなかった。
「裕人、お前部屋に行ったのだろう?
なら比奈に会ったんだな」
「ああ、あの子って、もしかして僕の妹?」
父は少しだけ迷うような素振りを見せる。
グラスのワインを一気に飲み干すと話し出した。
「まずはお前の事を話しておこう」
「僕の事?」
「裕人、お前は・・
まあ良い・・
元気だったか?
日本に帰ってたなら顔くらい出すものだ。
母さんだってどんなにお前に会いたがってたか」
そう言うとまたグラスにワインを注いだ。
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