23人が本棚に入れています
本棚に追加
これはあくまで噂だが、高校の時に女を妊娠させて留学を名目にアメリカの叔父の元へ行った。
大学を卒業後大手の企業に二年間勤めだが、其処で得た人脈を生かし僅か25歳でベンチャー企業を立ちあげた。
多くの特許を持ち業績を上げると三年で大企業に会社を売り渡した。
其処であいつが手にしたのは日本円にして約50億円・・
あいつはそれを元手にまた会社を立ちあげた。
そこでも業績を上げる。
二年で会社を売り飛ばして日本に戻った。
今のあいつの個人資産はゆうに数百億円だ・・
そんな男が女の一人や二人居ても当たり前だし、ごく普通の家に育ったお前を相手にする訳がない。
お前が傷つくのは目に見えてる」
兄の言葉に私は頭が真っ白になる。
「そんな・・
彼、女性と付き合った事無いって・・
だから避妊具だって無かったって・・
部屋にだって女性の痕跡なんか無かった・・」
「でも叔父が死んだのにお前には連絡も無いんだろ?
帰って来る気なら何で携帯が繋がらない?
悪い事は言わない。
諦めろ。
まだたった3日だろ?
忘れるんだ」
兄はそう言うと腕の時計を見る。
路が混むと飛行機の時間に遅れるからと先に店を出た。
食後のコーヒーが運ばれてくる。
それを口に運ぶ手が震えている。
「行かなくちゃ・・
仕事しなくちゃ・・
大丈夫・・
私には仕事が有るもの・・」
そう呟いて席を立とうとしたが足に力が入らない。
涙がひとりでに頬を伝う。
壁に掴まりながら化粧室に逃げ込んだ。
鏡の中の自分を見る。
兄の言う通りごく普通の女に見える。
「私・・遊ばれただけなの?
あの二日間は何だったの?」
そう思って声を出さずに泣いた。
少し遅れて企画室に戻る。
私のデスクの上に外国のゴシップ雑誌が置かれていた。
見るとページが開いている。
英語だけで書かれたそのページには、彼の写真と見知らぬ男の人の写真が載っていた。
次のページにはさっき兄が見せてくれた写真と似たような葬式の写真。
そこにも彼が遺影らしい物を抱いて写っている。
「これ、誰が置いたの?」
そう聞くと、同じ企画室の後輩が営業部の三浦さんが置いて行ったと言った。
私はその雑誌をバッグに仕舞う。
終業時間まで必死に仕事に集中する努力を続けた。
最初のコメントを投稿しよう!