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「……やはり。リヒスト先輩、このインクは、先輩の部屋にもありますか?」
アルファベットと依頼書をしばらく見比べた後、ラブが口を開く。現実を突き付けられ、口をつぐむリュートだったが、真顔に見えるが必死に笑いを堪えているときの顔をしているアイーダに肘で突かれ、ラブの質問に答えた。
「うん……リ・ヒ・ス・ト先輩の部屋にもあるよ。事務員が補充してくれる」
「では、この依頼書の書き換えに関与しているのは、コビンス氏で間違いありません」
ラブが、自信たっぷりに犯人の名前を挙げる。対照的に、リュートとアイーダは首をひねる。
「……誰、それ?」
「人体部事務員のエニー・コビンスですよ。5年前に入局。仕事があまり出来る方ではないので、雑用ばかり任されています。彼はこのフロア担当です」
ラブがボロボロのメモ帳を見ながら答える。あのメモ帳には、どんなジャンルのどれほどの情報が記されているのだろうか。リュートが尊敬と嫉妬が入り混じる熱い眼差しをラブに向けていると、それに気付いたラブが、少し耳を赤くして答える。
「……収集癖があるんです。切手とかコインとかいろいろ。情報も、集める物でしょう?」
「すごいな、ラブ」
リュートに褒められ、反応に困ったラブが下を向く。
「なるほど!じゃあこの依頼書は本物なんだね!」
イェンチが、件の依頼書を手に取りラブの頭を撫でる。
「癖が全く同じ。これは間違いなく、アイーダ先輩の文字で書かれた依頼書なんです」
ラブが、先程調べていたインクで、紙にアルファベットを書きなぐる。その上に魔法陣をかざし魔
力を込めると、書かれたアルファベット自体が縮んだり一部を伸ばしたりしながら、もぞもぞと紙の上を動き始めた。アルファベットの動きが止まり、そこには「Exposure of a trick (種明かし)」という文字だけが残る。
「インクに細工をしていたのか」
アイーダは、ラブに手渡された先程の紙を見ながら、自分が書いた依頼書の文字を指でなぞる。
「はい。ただ、コビンス氏がこんな高等魔術を使えるとは思えませんので、最低でもあと一人、この件に関わっています」
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