1 記憶

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「先輩!先輩……愛しています」  さらさらと木々が揺れ、緑の隙間から暖かな光が漏れる。風が「さくら」の花びらを攫い、駆け抜けていく。いや、これは、1年生の必修実技「色つき雪」のカケラだろうか。先輩、僕ならもっとうまくできます。 「すげーうれしい。けど、ごめん。男同士じゃ血が途切れるだろ?」  先輩は、ミルクティーのような優しい声でそう告げて、困ったように笑う。辛そうな表情。僕は、そんな顔させるために言ったんじゃない。  初めて人と繋がりたいと思った。この人を信じてみたいと願った。だから、たくさん覚えた言葉の中から、一番相応しそうな物を探し出して、声に出した。だけど、こんな言葉じゃ足りない。こんなのじゃ、僕の中の、狂ったどろどろは伝わらない。 「わかってます……でも……」  頭の上に、大きな手のひらをふわりと乗せられる。その感覚を味わうために目を閉じると、涙が一筋、滑り落ちていった。 「生まれ変わったら、一緒になろうな」  叶わぬ夢のような、残酷で、けれども優しい約束。 「約束、ですからね?」  止まらない涙が、僕達の未来を示している。だけど、僕の全細胞が、それを受け入れようとしない。今はただ、「生まれ変わったら」というその言葉が、組織液に代わって僕を満たす……  これは、とある魔術師が、セカイを敵にまわしてでも、愛を貫くお話。 「いーえ。誰も信じない狂人が、世界を憎しみ殺すお話です」
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