47人が本棚に入れています
本棚に追加
「君。使い魔のくせに主をやばい人呼ばわりかい?」
足元に視線を送り戒めたが、黒い猫は小さな肩をスイとすくめるだけだった。
「あと、猫は普通、人語を理解しても話せない。紛らわしいから語尾にニャーをつけてくれ」
「そんな事より、晩ごはんを食べてから針が一周した。もうすぐ来るんだろ?監視。ニャー」
猫のくせに下手くそな「ニャー」の後で、後方に身を縮め、前足で舵を取り、流れるように力を移動させ、後ろ足でその力をコントロールして作業台の上に飛び乗った。着地は羽のように軽やかなので、物を揺らしてラブに咎められる心配はない。自身の見事なジャンプに気が昂ぶったのか、自慢の後ろ足で耳の後ろを得意げにシャシャと掻く。
「ああっ、やめろ!毛が舞うだろっ」
ラブは慌てて、手に持っていたビーカーと試験管を猫から遠ざけて置き、ポケットから、自作の魔動式空気清浄器を取り出して放り投げる。赤血球のような形のそれは、ふよふよと浮遊し、真ん中のくぼんだ部分から、猫の毛が混じった空気を吸いこんで、その反対側からはきれいになったものを出す。
役目を終えた魔動式空気清浄器は、自らラブのポケットの中へ帰って行った。
「そうだよ。針が一周したら、どうなるんだっけ?あと、監視じゃなくて監査」
ラブは、猫が「1時間、明日に近くなる」と答えるのを「よくできました」と褒めながら、先程守ったビーカーと試験管の中の液体を何度か行き来させる。ポン、とコミカルな音がして、試験管の中に、形がヒヨコマメに類似したピンク色の固体が6つ、発生する。
「『For You』だ。今晩はマグロかな?」
「残念、納期は明後日だ。お金も明後日」
残念そうに試験管の中身を見つめる猫の頭をポンポンと撫でてやる。もちろん、毛が飛ばぬよう最善の注意を払って。
最初のコメントを投稿しよう!