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「人体実験、莫大な数の人体サンプル回収、禁忌魔術の使用、違法薬の密輸」
リュートは、羊皮紙に書かれた監査内容を読み上げる。紙の一番下に、直属の上司のサインが目に入り、気がぐっと引き締まる。
「これ、全部事実か?」
「シャー!ウゥー」
テーブルの下で様子を探っていた猫が、毛を逆立てリュートを威嚇する。一瞬にして変わった空気に反応したのだ。やっと視線を合わせてきたのが、人を蔑むような冷たいものだったので、「勝手な奴だ」とラブは思った。
「それはあなた自身で調べる事でしょう?でも、まあ、答えは半分イエ……」
床に、赤い液体が散らばる。それが自分の体内から出た血液であることに気づくと、熱くて冷たいものが全身を駆け巡るように「痛み」という感覚が押し寄せ、思考を支配する。生理的な涙が零れた。
「かはっ……」
ラブは、自分の腹に違和感を覚え確認する。大剣の刃先が目視できた。大剣はラブの腹を刺したまま、鍵を回す要領でゆっくりと床と並行になり、内臓をえぐる。
「場合によってはどれも死刑になり得る。発言には気を付けた方がいい」
そう言い放つリュートを横目で見ながら、ぱたんと膝をつくと、大剣も、散らばった赤い血も、ラブの視界から一切消え去った。
「はぁ……はっ、んっ」
荒れた息を整えようと唾を飲み込むと、その振動で、両の目から大粒の滴が落ち、先程まで血溜まりが出来ていた床に、本物のしみを作った。
「幻覚魔法、完成させたんですね。そっちの方が性質が悪い」
すっと立ち上がり、膝の埃を払うラブをリュートが凝視する。「幻覚魔法」の解除条件を満たさぬうちに、自分で気づき動き出す人間を初めて見たからだ。リュートは、辛そうとも、怒りを表しているとも捉えられる表情で、一つの結論にたどり着く。
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