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 驚くほど小さくて、少し汗ばんだ手が、結城(ゆうき)の人差し指を懸命に掴んでいる。 「ほら、お兄ちゃん、抱っこしてみてよ」  妹の頼子(よりこ)に言われて怖々と腕に抱くと、赤ん坊は両手両足を忙しなく動かしながらきゃっきゃと機嫌よさげに騒ぎ出した。 「さっそく伯父さんが気に入ったか」  頬を緩めっぱなしの父が、汗で小さな頭に張り付いた柔らかい髪を、優しい手つきで撫で上げる。 「サキちゃんはイケメンが好きなんだよねー」  母は咲(さき)のほっぺたをつつきながら、いたずらっぽく結城を見た。 「イケメンがどこにいるんだよ」 「あ、照れた! 咲ちゃん、伯父ちゃんが照れたよ!」  頼子がからかうのに苦笑しながら、結城は咲を頼子の腕に戻した。 (イケメンていうのは、あいつみたいなやつを言うんだ)  そんなことを考えて指の先がジンと痺れる。けれどそれは次の瞬間、小さな痛みへと変わった。  この絵に描いたような幸せのなかに居て、結城が感じるのは、そこはかとない疎外感だ。
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