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ある日、学校から帰宅した結城は、部屋の様子が違っていることに気付き、慌ててクローゼットを開いた。本は確かにそこにあったが、僅かに動かした形跡があり、結城の心臓が嫌な感じに跳ねた。
「母さん、オレの部屋、掃除した……?」
階下に下り、キッチンで夕飯の支度をしている母に、努めてなんでもないフリを装って尋ねた。
「ああ、洗濯物置くついでにね」
「ふうん、……ありがとう」
結城はぼんやりとした頭のまま、また階段を上った。母は一度も自分を見なかった。
結城が借りた本はどれも文学的な価値の高い本でもあったから、話自体に興味があったと言うことも出来た。
けれど結城は本を「隠して」しまった。そのことが何を意味するのか、思春期の息子を持つ母親なら、当然考えを巡らせたことだろう。
結局、母がそのことについて触れることはなかったが、この日のことはいつまでも結城を苦しめ続けた。
母は父に話しただろうか。もし話したなら、父はどう思っただろう。
結城はいつも怯え、自分の態度は不自然ではないか、もしかしたら今夜あたり父に呼ばれるかもしれない、そんなことばかりがいつも頭の中を駆け巡っていた。
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