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 賀川峻(しゅん)。この世でひとりきりの、想い人。  初めて逢ったとき、その目に吸い込まれた。何故かは判らない。  けれど「出逢った」と感じた。  賀川も自分を見ていたと思う。  自分と違って人気者で、快活で、まっすぐな男。  彼の周りはいつもたくさん人がいて賑やかだったけれど、結城が彼を見ると、必ず彼も結城を見ていた。    そのたびに身体中が熱くなって、指先が痺れるような感覚を何度も味わった。  賀川は弓道部に所属しており、部内でも一、二を争う実力だと言われていた。結城は何度かこっそりと彼の練習を覗きに行ったことがある。   初めて弓道場を訪れた時、静かで厳しい横顔と、構えの美しさにハッと息を呑んだ。  鋭い音を立てて放たれた矢が一本、二本、三本と的を捉え、四本目で皆中を決めたとき、結城は完全に恋に落ちた。
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