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街燈の虫と我
怜は,まだあの公園に居た。
日は沈みかけていて,昨日と同じようにヒグラシが鳴いている。ジメジメとした空気が怜の腕や首にまとわりついていた。
開いた文庫本は,しおりから2ページ進んだだけだ。
暁人はまだ部活をやっているのだろうか。学校に戻って,様子を見てこようか。
怜はそう考えて,踏みとどまる。
暁人がここに来るアテなど微塵もないのだ。暁人が来る気がする,というのは単に自分の思い込みなだけであって,約束もしていなければ確信もしていない。
普通なら,約束していないのなら来るはずがない。自分がいかに自惚れていたのかを思い知らされた。僕は気持ちが悪い。
それに,仮に寄ろうという気持ちがあったとしても,実際に昨日の今日でまたここに来るのは気が引けるかもしれない。
そして何より,僕と違ってあいつは忙しい。
自然と「自分と違って」という考えが出てきたことに怜は驚いた。
いくら仲良く見えても,所詮は他人なのだ。心が通じ合うということなんてありえない。もしかすると,家族ですらありえないのではないだろうか。
夕暮れ時でも,日中の暑さは残っていて,怜は汗ばんだ頬をワイシャツの袖で拭った。街燈に虫が集まっている。 小さな羽虫のようなものから,大きな蛾も飛んでいる。
習性とはいえど,何を思って光に飛んでいくのだろうか。蟲たちの目にはあの街燈がどう映っているのだろう。僕たちに置き換えると,あの街燈は何に値するのだろう。
たぶん,僕達も無意識のまま,必死に街燈に向かって飛び続けている。
ふと,睦の顔が思い出された。そして,今日の光景も。
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