街燈の虫と我

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「何してんの?」  後ろから声をかけられたのに気が付き,怜ははっとして振り返った。  颯太だった。 「何って,本読んでたんだよ。見ればわかるでしょ」怜はまだ暁人を期待していた自分に嫌悪感を覚えた。背中からぞわぞわっとした感覚が全身に広がっていった。 「そうなんだ,目悪くなっちゃうよ?」  颯太の言葉で,本を読むには辺りが暗すぎることに怜は気づいた。 「うん。颯太くんは今帰り?」怜は本を閉じると,慌ててその指摘を受け流した。 「いやー,部活はとっくに終わってたんだけどね」 「いっつも自転車でウロチョロしてるよね。何してるの?」あくまでも,本人はこの言い方に悪気はない。 「う,うろちょろ・・・」颯太が苦笑いした。 「ちょっといろいろあってね!」ニコニコとした笑顔に戻して颯太が返す。 「そっか。活動的だね」  怜は颯太のことは嫌いではなかったが,親しい実感がなかったので少し距離を感じていた。上手い言葉が探せない。自然に振舞おうとすると,ついにべもない言い方になってしまう。 「俺はそれが取り柄だから!」 「そういえば,学校の横を通ったら体育館はまだ明かりが点いてたよ。遅くまで大変だなー」  怜は颯太のこういうところが好きだった。颯太は相手の求めるものを察知することに長けていて,その上それをあからさまにしない。  もし自分だったら,こうは言えないだろう。きっと「暁人を待っているんだろう」と分かれば,直接的にそれを指摘してしまうに違いない。  読書のくだりでも同じだ。「こんなに暗いのにまともに読めるはずがない」と言っていただろう。もっとひどければ「家で読めば?」とも言うかもしれない。
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