街燈の虫と我

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 颯太は敵を作らない。それが羨ましかった。  暁人も颯太も,自分には無いものを持っている。それゆえに人気もある。自分が小さく見えた。僕は負け犬だ。そう思った。  また,今日の教室での出来事が思い出された。颯太ならどういう行動をしていただろうかと気になった。 「ふーん,そうなんだ」怜は内心知りたいことを知られて嬉しかったのだが,あえて興味のないように振舞った。 「ちなみに野球場は明かりが消えてたよ!」 「そっか」  どう返せばよいのかわからなかった。相手が喜びそうな反応を考えていたら,テンポが遅れて妙な間があいてしまう。その方が怖くて,つい無意識に素っ気ない返事が出てしまった。 「ごめんごめん。どーでもいいね!・・・じゃー,そろそろ俺は行こうかな」  颯太はそう言いながら,挨拶代わりに軽く右手を挙げて(きびす)を返した。 「僕も行くよ」怜がカバンを担いで颯太に駆け寄った。  怜の予想外の行動に,颯太から「え!?」という声が漏れた。  怜にとっても,勇気の要る行動だった。  実際,待っているべきかどうかという葛藤と,颯太についていくかどうかという葛藤で揺れ動いていた。  一番望ましいのは,颯太を見送ってから暁人を待つという選択だったが,今日のことを話すにはさすがに遅すぎると思った。  颯太についていくのも,本当は気が引けた。会話が続かないのは分かり切っていたからだ。暁人が居れば,そう思いかけて,また自分の不甲斐なさに気付いた。  彼を見送ってから少し間をおいて一人で帰るという選択の方が気まずい思いをしなくて済むし魅力的だった。  ただ,今はとにかく,気を遣ってくれていたであろう颯太に対して,敵意がないということだけでも示したかった。  それに,少しでも自分を変えたかった。
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