街燈の虫と我

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「一緒に行く」もう一度怜が言った。颯太の反応は,聞こえていなかったからだと思った。  颯太はただ立ち止まって待っていた。  案の定,会話が続かずに気まずい思いをすることになった。颯太が色々と話題を振ってくれるのがさらに申し訳なくなる。  結局,自分のエゴに付き合わせる形になってしまったことを悔やんだ。颯太も自転車をわざわざ押して帰るより,乗った方が速かったことだろう。  そこまで気が回らなかったことが情けなかった。颯太ならこんなことはすぐに気付いたはずだ。 「いつも何の本読んでるの?」と,颯太が怜の持つ本を指差して訪ねた。 「神曲」怜が答える。 「しんきょく?」 「うん」 「ふーん,そうなんだ。面白いの?」 「全然」  突然,颯太が声をあげて笑った。 「えー?苦行かよ!」  予想外のリアクションだった。怜の緊張が少しほぐれた気がした。 「苦行かもしれない」怜も笑った。 「読まなきゃいけないの?」 「そんなことはないよ。でも,ちょっと気になったから読んでみようかなって」 「そうなんだ。どう気になったの?」 「これ,作者がダンテ・アリギエーリっていう人なんだけど,ハマってたゲームの主人公がダンテっていう名前でさ・・・」  颯太は相槌を打って聞いている。 「この作者から名前を取ってるらしいんだよね。それで本の内容も主人公のダンテが地獄と煉獄と天国を巡るっていう内容らしくて・・・」 「確かに面白そうだ!」颯太が頷く。 「でも,実際読んでみたら・・・?」颯太が怜の方を見てニヤニヤ笑っている。 「全っ然,面白くない!」怜が熱を込めて言い放つ。  二人の笑い声が街燈が照らす路地に響いた。
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