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丁度帰宅した母がその騒ぎに気付き,慌てて部屋に駆け込んでくると,父の怒りの矛先は母へと向けられた。
「大した稼ぎもねえくせに家事も出来ねえのか!!」
「誰のおかげでメシが食えてると思ってんだ!」
聞き飽きたセリフだった。この光景もずっと昔からみてきた。身体が動かなくて,ぼーっとしている。ふつうの家庭で起こるありふれた夫婦喧嘩の一環。いつものことだから,心配ない。
気が付くと,視線は壁の穴に向けられていた。あの影にあったのは,愛情だったのか,それとも・・・
怜の部屋には,まだその時の穴がそっくりそのまま残っている。
今も丁度その穴を見つめて,あの影を思い出していた。
「この壁の抜け落ちたところにあったのは,かつて僕にも少しだけあった,心の強い部分なのかもしれない」と,何となくそんな気がした。
そして,怜はキッチンへと足を運んだ。
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