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午後の教室
怜の頬には大きな絆創膏が貼られていた。怜の白い肌には絆創膏のベージュ色が驚くほど映えていて,遠目からでもすぐに分かった。
部活動の朝練を終えて教室へ入ってきた暁人にもすぐにわかった。
「まだ痛い?・・・ごめんな,本当」
挨拶もなしに暁人が話しかけた。怜は相変わらず読書に勤しんでいた。
「もう謝らなくていいよ。全然気にしてない」
怜はいつものような冷たい言い方にならないように気を遣って,ハイトーンを意識して返した。ただ,目を合わせたり,笑顔を作ってみたりするのは本当に苦手で,かえってぎこちなくなる気がしたのでやめた。
「やっぱ怒ってる?よね」
「つい,カッとなっちゃって,よくないのは分かってたんだけど,つい・・・」
暁人には謝ることしかできなかった。昨日のあの瞬間を思い出すだけで,とてつもない不安にさらされる。体が冷たくなっていき,小刻みに震える気がした。
「怒ってないって!しつこいなあ」
怜ははっとして,暁人を見た。暁人は俯いていたので怜と目が合うことはなかった。
「手が早いのはいつものことじゃん。それに怒らせたのは僕だし」
暁人は,はじめは,その大げさな絆創膏やヘタクソで余所余所しい演技は自分への当てつけかと思いムッとしていたが,いつも通りの怜に戻った様子を見て安堵した。
自分を責めているわけではないと思えた。
「直すようにする」
暁人はそう言い残して,自分の席に戻っていった。
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