午後の教室

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 ホームルームの時間が近づくにつれ,教室の中は生徒であふれかえり,賑やかになった。涼しかった朝の教室とは一転して,熱気に溢れている。  一番後ろの怜の席からは,そんな教室の様子がよくわかる。見えないところで働いている力関係もわかる。誰と誰がよくつるんでいて,誰が一番力があるのか。どのグループとどのグループが仲が良く,また,悪いのか。  こうも騒がしいと読書も捗らないので,怜は本を閉じて机に突っ伏した。目を閉じてぼーっとしていれば,嫌なことに関わらなくて良い気がした。  暁人のことが気になった。誰かと会話している。きっと秋山あたりだろうと思う。暁人は小学生のころから運動が得意で身体も大きかったので,クラスの中では目立っていた。  小学校で運動の出来る男子は,女子はもちろん男子からも”モテる”のだ。それは中学生でも変わらない。「バスケ部の穂村」と言えば,同級生はもちろん,学年を越えても暁人を知る人がいるだろう。  運動能力の高さは一種のステータスで,それだけでもスクールカーストの中層以上には留まれる。  怜はそんな暁人を幼いころから見てきた。ずっと背中を追っていたようにも思える。運動の出来る暁人が羨ましかったし,妬ましい気持ちもあった。  中学生にもなると,周りも誰がより”強い”のかが何となくわかるようになってくるのか,暁人に真っ向から意見したり対立することは少なくなった。そのため,暁人の喧嘩っ早さが目立つこともなくなった。  怜にはそれが何となく,少し寂しくもあった。大きく”差”をつけられている気がした。  ホームルームが始まった。担任が出席を取り始めたところで怜は睦の姿が無いことに気が付いた。  担任教師から「大山はお休みです」と告げられた。やっぱり,今日は学校に来ていないのだ。  休みであることが告げられたとき,クラスのどこかで小さくクスクスと笑う声や,ひそひそと囁く声が聞こえてきた。 「じゃあこれで朝のホームルームを終わります」出席確認を終えると,教師は何もないかのように教室から去って行った。
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