午後の教室

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 大地は暁人と同じバスケットボール部だったので,怜は暁人を通じて大地と知り合った。  大地には弟と妹が一人ずつ居る。弟は小学4年生で,妹はまだ小学校1年生くらいだったと思う。両親は共働きで帰りが遅く,弟たちの面倒は大地が見ている。  弟と妹想いの良い兄であり,曲がったことが大嫌いで,真面目な奴だった。怜は彼をいいやつだと理解してはいたが,堅物だとも思っていた。  暁人は彼のことを「ああ見えて,結構面白いやつだよ」とも言っていたが,怜は内心暁人の勘違いだろうと思った。  昨年,大地は木村と同じクラスだった。横暴な木村と真面目で頑固な大地が衝突するのは当たり前のことだった。  きっかけは分からないが,木村が大地に因縁をつけたのが原因らしい。  きっかけなんて本当はなんでも良かったのだろう。木村は大地の毅然とした態度が気に入らなかったに違いない。  二人は口論になった挙句,木村がキレて椅子を持ち上げ,大地に振り下ろそうとしたらしい。大地はすかさず木村に突進した。  木村は教室の後ろの方まで吹っ飛んでいって,頭を打って保健室に運ばれた。  周りはもちろん大地の味方だったので,教師から大地が強く咎められることは無かったが,木村のメンツは丸潰れだった。  しばらくして,大地は木村に対して強く反発することが無くなった。  木村の兄が出てきて,大地を脅したという。本人が何も言わないので内容はわからないが,複数台の改造バイクに囲まれた大地を見た人間がいたので,木村の兄が暴走族で大地に何かしたのは本当のようだ。  怜はきっと弟や妹をダシに脅されたのだろうと推測していた。それが一番卑怯だが効果的だからだ。  不幸にも,その一件が木村の悪名をより一層高めることになった。兄の存在を知らしめることで,自身により強い影響力を持たせてクラスを支配したのだった。  木村とは,そういう人間なのだ。
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