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「本当か?どんな人どんな人?」
もう、興味しんしんである。
「うん、実は会社の同僚に連れていかれたフィリピンパブで知り合ったんだ。アイって名前で独身だって。俺もこの歳まで出会いがなかったからさ。国籍なんかいいかなぁって」
なんとフィリピーナだと!国際結婚とはまた、こいつらしくないけれど、『愛の国から幸福行き』の愛の部分は、合ってるわけか。だから切符を買ったのかも知れないし。
「そんなことが…初耳も初耳!それならそう
と式に呼んでくれたらよかったのに」
「それがね。もう付き合ってから、半年くらいなのに彼女妊娠してさ。できちゃった婚ってのも恥ずかしいから、お腹の大きい彼女を連れて、軽井沢の教会でやったんだ」
「えっ?半年で…」
いやいや、得意満面で明るい発言だけど、それはお前…
「不思議だろ?やっぱり外国の人は日本の常識で測れないね。うちの妹の時なんかもっとかかってた気がするけどな。いっぺんにパパにまでなって。もう、幸せったら♪」
そう言いながら奴は、俺に奥さんと彼女が抱っこするベビーの写真を見せたのだ。
「ほら、けっこう嫁さんに似てるだろ。でも口もとなんかは僕に♪」
生まれて数ヶ月なんだろうが、色の黒さといい、どう見ても奥さんにしか似ていない。女の子として目が嫁さん譲りでパッチリしているのは救いだが、口もとにしろこの男のDNAがどの辺にあるのか理解不能だったので、俺は話題を変えた。
「ほう、じゃあ今も上手くいってるんだね」
そう言うと、なぜか奴はうつむき、
「それなんだけどね。実は親一人子一人だった母親が危篤になったって言い出してさ。最後に孫を見せたいってことなんで、二人で帰国してるんだ」
はあ?なんなんだ、その話。
「二人でって母娘でか?お前は旦那でパパなんだろ?なんで一緒に行かないんだ?」
「僕もそう思って行くつもりだったんだけどね。うちうちの事だし、ちゃんとケジメをつけてから、貴方の元に戻ろうと思うなんて言うもんでさ」
そういって奴は、はにかんだ様な笑顔をみせた。少し眩しかった。
「それ、いつの事?」
「うん、去年の夏かな」
「ずっと待ってんのか?」
「ああ、やっぱり一族のケジメをつけるのは生半可な事じゃないんだろうしね」
絶句してしまった。
確かに奴は、たどり着いたのかも知れない。
幸福へ…
[了]
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