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「はぁー...」
乃愛はため息をすると、空を見上げたまま、静かに目を閉じた。
カツッ、カツッ...
「ん?」
杖を突く音が聞こえ、その音はだんだんと自分に近づいてくるようだった。
乃愛はゆっくりと目を開け、だらしなく座っていたのを正し正面を向くとそこには眼鏡をかけ腰が少し曲がった小柄な老婆が立っていた。
白髪の老婆は紫色の杖をついたまま申し訳無さそうに乃愛に話しかけてきた。
「休んでいたところごめんなさいね...少し隣に腰かけてもいいかしら?」
「えっ!?あ、はいっ!もちろんです!」
乃愛は端に寄り、隣のスペースを空けると、立っていた老婆にどうぞ、どうぞと空けたスペースに座るようなジェスチャーをして見せた。
「ごめんなさいね、ありがとう」
老婆は乃愛に笑顔でお礼を告げると、乃愛は両手をパタパタと交差させ「とんでもないです!どうぞ!」と、あわてて老婆に告げた。
老婆の声は優しく、安心感を覚える声をしていたので、ベンチの隣に座られるのも嫌な気持ちにはならなかった。
老婆が乃愛の隣に座ると、もう一度乃愛にお礼を告げた。
「はあー...ありがとう、散歩していたら疲れてしまってね...ゆっくりしていたのに、邪魔してしまってごめんなさいね」
「い、いえ!私も散歩してまして!私は充分休めたので!その、もう少ししたら帰るので!!」
「いいのよ、私は少し休んだらすぐに帰るから...」
隣に座っている老婆は乃愛の方を向くと、少し驚いたような表情を一瞬だけし、しばらくじーっと乃愛の顔を見ていた。
乃愛は何か自分の顔にゴミでも付いているのか?と思い、手で顔を触った。
「あの、何か私の顔に付いてますか?」
焦った様に乃愛が聞くと、老婆は眉を下げて、乃愛に話し始めた。
「あ、ごめんなさいね...あなたが知り合いに似ていたもので...」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、髪の毛の色とか、可愛らしいお顔とかね」
「か、かか可愛らしいですかっ!?」
乃愛が顔を真っ赤にして慌てていると、老婆はクスクスと口に手を当て笑い、しばらくすると少しだけ悲しげに正面を向いて小さく呟く様に言った。
「ええ...雰囲気も...」
「え...?」
乃愛が聞き返すと、老婆は正面を向いたまま静かに話し出した。
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