迷惑電話

　バイブ機能にしてある携帯が揺れ出した。
　相手は判ってる。だから決して出る気はない。
　放置しておくと振動は止み、着信があったことを知らせるランプが灯った。
　どうせあと一時間もしたらまたかかってくるんだ。だから消す気すら起きない。
　月に一度、同じ日付の日に必ずかかってくる電話。
　ペースは一時間に一本。内容は、きっと今でも同じだろう。
「今アタシ、どこにいると思う？　お風呂場だよ。そう、今からここで手首を切るの」
「別れるなんて、そんなの許さない。そのくらいならここで死ぬ」
「死なれたくなかったら家に来て。今すぐ」
「いいの？　本当に切るよ？　アタシ、死んじゃうよ？」
「アタシが死んでもいいの？！」
「切るからね！　本当に、切るからね！」
　昼前から夕方まで、一時間おきにかかってくる電話の内容は毎回これだ。
　最初は慌てたけれど、今はもう、完全放置を決め込んでいる。正直、俺は会ったこともない女からの電話だし。
　幼馴染の悪友が俺の名前を使ってナンパした女。色々しつこくなってきて、携帯を新しくしたと、勝手に俺の電話番号を教えたのだ。
　その直後も直後、かかってきたのがこれだった。
　電話口であれこれ聞いても、興奮しすぎている女とは話がまるで噛み合わず、うろたえてあちこち連絡を入れていたら、悪友が事実をバラしてきた。
　後々聞いたら、一応自殺は未遂ですんだけれど、偽名の件とか、ともかく揉めて大変だったとか。ま、俺の知ったこっちゃないけどな。
　そんなバカ野郎とは縁を切り、ゲンの悪い携帯も解約した。…なのにどうしてか新しい携帯に、月に一度、必ずこの着信があるんだ。
　確か、自殺は未遂だろ？　携帯だって変わってる。というかそもそも、付き合ってたのは俺じゃない。なのにどうして俺のところにこんな電話がかかってくるんだ。
　あのバカ野郎が俺の名前を騙ったから、この名前の相手が恨む相手、とかになっちまってるんだろうか。何にしても迷惑すぎる話だ。
　電話を変えても月一かかる迷惑電話。ああ、やってらんねェ。

迷惑電話…完