第2章

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第2章

 1  夏の終わりに本田真智子は、末期ガンで、余命三ヶ月と宣告された。  三十四歳になったばかり。長女の寛子は小学校三年生、長男の結城は一年生になったばかりだ。  目の前が真っ暗になった。 「先生、本当に私の癌は治らないのですか?」  隣に座っている夫の浩之は、青ざめた顔で下を向いている。  医師は、無念致し方ないという表情で病状を説明した。 「乳癌から、恐ろしい速度で肺、腎臓、肝臓に転移を始めています。今まで痛みが余り出なかったこと自体が、奇跡でしょう」  一言一言、噛みしめるように説明をする医師の言葉が、真智子の残り少ない命の現状を明らかにした。 「どんな病状であっても、包み隠さず、正直に教えて欲しいんです。主人と、真摯に受け止めます」  真智子は、隣で倒れそうなほど驚愕している浩之を見た時、医師に言った言葉を後悔した。  浩之は泣きそうな表情で医師に質問をした。 「どのような治療をしても、三ヶ月なのですか?」  医師は、やるせない表情をしながら気散じ程度に説明した。 「化学療法や様々な治療により、延命効果が期待されます」  机の上に掲げられた電光板の写真を指さしながら、説明が続く。 「問題は、転移した癌がどれほどの速度で痛みを発生させるか、でしょうね」  医師から聞いて、数日前から痛み始めた背中の中心あたりが、急にキリキリ激しく痛み出した。  ともかく、もうこんな所で死の宣言を聞いていたくない。  真智子は浩之を急かして帰宅した。  タクシーの中で浩之は何を想っているのだろうか、見当もつかなかった。  真智子は「子供たち、まだ小さいのにね……」と言ってみた。  夫は横を向いて窓の外を見つめていた。
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