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砂場で遊んでいる結城に走り寄り、しゃがみ込んで聞いてみた。
「ゆうちゃん、やっぱり空手やってみようよ。あんな小さな女の子も、やっているんだって。ゆうちゃんにも、きっとできるよ」
諭すように、真智子は一言一言を噛みしめるように語りかける。
「ゆうちゃん、ママ、君に本当の強さを身につけて欲しいんだ」
砂で遊ぶ手を止めて、結城が聞いた。
「本当の強さって、なーに?」
「怖くても、逃げないことだと思うよ」
「それ、どういうこと?」
結城が母の顔を見つめ、困った顔で聞く。
「んっ……勇気を出すってことじゃない」
結城は自信なげに言った。
「ゆうくん、勇気なんか出ないよ」
「大丈夫だよ。ゆうちゃん、勇気を出して、って言うでしょう」
結城は母の顔を見ながら真剣に聞いている。
「出してっていうんだから、誰の心にも勇気はあるはずでしょう」
真智子は必死に説得を続けた。真智子はともかく、自分が元気なうちに、この子が強く生きていける何かを伝えたかった。
「ゆうちゃんの中にも、きっと勇気があるから、それを出してみようよ」
懸命に言いながら、真智子は自分に言い聞かせているような気持ちになっていた。
ふと見上げると恐竜公園にはたくさんの桜の木が植わってあった。
秋の初め、桜の木はみな一様に葉を落とし寒々しい枝を伸ばしていた。
「あの桜の木が花を咲かせるまで生きていられるのかしら…」
改めて真智子は自分に時間がないことを思い知った。
(くよくよ、している時間などない、今は結城が強くなることだけを考えて生きよう)真智子は強く決意をした。
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