第2章

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その姿を見て真智子は(来て、良かった)と素直に思えた。そこで真智子は、師範に恐る恐る聞いてみた。 「あのー、一つ質問をしていいですか?」  真智子を見下ろすような背の高い師範が、笑顔で訊いた。 「何でしょうか?」 「どれくらい練習したら……強くなるものですか?」  一瞬、何を言っているんだろうという表情をした師範が、すぐに笑顔になって答えた。 「さぁ、それは。強さにも、いろいろな考え方が在りますから、一概には言えないでしょうね」  師範は困った表情で腕を組み、頭を少し倒しながら続ける。 「お母さんにとっての強さとは、どういうことを意味しているのですか?」  今度は、真智子が考え込む番だった。 「えっーと……それは……結城に関して言えば、やっぱり苛められないとか、独りでも暴力に向かっていけるとか……ですかねぇ」  少し、しどろもどろになっていると自分でも気づきながら、それでも希望を持って、真智子は話してみた。 「一応の目標としては、やはり黒帯ですかねぇ。有段者になって、誰かに苛められたとか、誰かを苛めたという話は、聞いたことがありませんので」  師範は微笑んで断言した。  真智子は、微かな望みを持った。そこで、道場の片隅で型の稽古を黙々と行っている少年を指さしながら訊いてみた。 「例えば、あの子みたいに黒い帯を巻くのに、どれくらい懸かるものですか」 「そうですね。体力や稽古量にも依りますが、通常は三年。早くても、二年は掛かると思いますよ」  早くて二年と聞いて、真智子は少しガッカリした。  思わず暗くなった真智子の表情を見た師範は、心配そうに訊いてきた。 「何か、早く強くしなければいけない理由でもあるのですか?」 「いえ、そういう訳ではないです、あっ、ありがとうございました」  頭を一つ下げると、真智子は逃げるように師範室を出て行った。           
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